『  多忙につき ― (4)  ―  』

 

 

 

      リリリ −−−−・・・・

 

「 ・・・ ん〜〜〜〜  お 起きなくちゃ・・・

 お弁当 作る時間 〜〜〜   ううう あと5分〜〜〜 」

寝ぼけマナコ、というかまだ半分以上 眠りつつ

白い手が枕元を探っている。

「 ・・・? あれ ・・・ いつものトコに ・・・ 時計 ない?

 ・・・ あれ ・・・? 」

 

       パタ パタパタ ・・・ 

 

手だけが その一帯を探るのだが。 目的のモノに当たらない。

そのうち ― 気付いた。

 

     あれ。 リネンの感触が ちがう??

     そういえば ・・・ 

     アラーム音も ちがう・・・わよねえ?

 

     あ。 これ スマホのアラーム だわ

 

         あ ?  ちょっと?

 

     ここ ・・・ ウチのベッドじゃ ない

 

「 ・・・ あ。 」

やっと現状を把握できた。 同時に 目もしっかりと開いた。

「 ・・・ そ〜でした ・・・ 本日 旅公演最終日〜〜〜

 ううう チビ達のお弁当は作らくてもいいけど ・・・

 ・・・ 今日も二曲 踊るんだ ・・・

 さあ〜〜〜  フランソワーズ〜〜〜  起きるのよっ 

 

     ごそごそ ・・・ がば。  ことん。

 

せ〜〜の! ・・・自分自身に号令をかけ ― 起き上がった。

 

「 ちゃんと時間考えてアラーム掛けといたのよね・・・

 朝ご飯までにストレッチしとかないと ・・・

 あ! そうだ 妖精の衣装、破けたトコ あるのよね

 ウィリのチュチュ、スパンコールが取れちゃったし・・・

 そうよ!   そのために早起きタイムにしてたんだった  」

 

えいやっとベッドから抜け出し、 一人だからいいよね〜〜〜 と

かなり際どい恰好で バス・ルームに飛び込み  ―  ほっとした。

 

最後に冷水シャワーで しゃっきりし、部屋に戻った。

「 ふんふんふ〜〜ん♪  え・・・っと?  ミルク〜〜 と 麦茶♪

 昨日 ばっちり買ってあるもんね〜〜

 ふふふ すばる? ぎうにう 飲んでる?  お母さんもねえ〜〜

 ミルク麦茶、 気に入ってるのよ〜〜 あ お砂糖あ入れないけど 」

大きなコップでごくごく・・・ 飲みつつ、 軽くストレッチ〜〜〜

 

     ふん ・・・・ ああ 損傷はない わね〜〜

     筋肉も大丈夫・・・でしょう!  多分・・・

 

床に座って ストレッチ〜〜〜 ついでに破けた衣装を広げる。

 

     あ〜〜〜 やっぱ あの時だわあ・・・

       ベリって音 したし ・・・

 

     チュチュのスパンコールは ・・・ う〜〜〜 めんどくさ

     ・・・  え〜〜い 貼っちゃえ!

     ホントは縫い付けなんだけど さ・・・

 

      さあ 〜〜〜  やる わ!

 

ちくちく ・・・ きゅ。  ぎゅ ぎゅ ぎゅ・・・

 

かなりの早朝、身体とアタマを起こしつつ 糸針を使ってゆく。

 

     ふふ ・・・ キツいけど 楽しいわ。

     踊ることだけ 考えてればいいって 最高よ

 

     ・・・ あ ・・・・ そう ねえ・・

     チビ を あと一人・・・?

 

     イヤじゃない わ。 

     大変だけど 可愛いものねえ〜〜

 

     でも でも ね

 

繕いながら キャリアについてつらつら思いを巡らす。

 

      ・・・ でも。  

      そうするとまあ2年近くは 今みたいには

      動けないわねえ・・・

      わたし 復帰できない ・・・ かも。

      < 元に戻す > のは やっぱり無理かも・・・

 

      双子達の時も 結構大変だったものねえ・・

 

もっともっと踊りたい・・・ やっと舞台、出られるようになったし

今のカンパニーも 同僚たちも 気に入っていて居心地も いい。

大変だけど遣り甲斐は十分だし ずっと望んでいた生き方だ。  

 

      けど。   ジョーの気持ち ・・・。

      わかってるの ものすごく子供好きって

      家族が大好き って。

      それに ・・・ すばる だって。    

      お兄ちゃん になれたら すごく喜ぶわよね

      ふふふ  すぴか はますます張り切っちゃうかな

 

      ・・・ だけど。

 

思いは ほんとうに堂々巡り ・・・  答えなんて だせない。

すぐになんて だせない。  一人でなんて だせない。

 

       う〜〜〜ん ・・・

      ひとりで悩んでいても ダメよねえ?

  

      これはまさに! ウチの家族の問題だし。

      わたしに 今 出来ることは

      自分自身の気持ちをしっかり見極めておくこと、 

      ・・・ かしら。

 

 

          カサ カサ  こん。

 

気がつけば 部屋のドアが小さく音をたてている。

「 ・・・? え   な に ・・・ 」

 

「 おっは〜〜〜 フラン〜〜〜? 

 

「 あ みちよ 〜〜〜 」

   こそ・・・っとしたノックにだと気づきドアへとんでいった。

「 おはよ 早いのね みちよ 」

「 うん ・・・あ  ごめん 起こしちゃった? 」

「 うう〜ん 起きてたわ。  ほら お裁縫・・・ お衣装・・・ 」

「 あ 破けたって言ってたもんね 」

「 そ。  だいたい繕ったけど ・・・   ね どうしたの 」

「 うん ・・・ あの さ。   あのう〜〜 ごめん・・・ 

 あの、フランソワーズのお父さんの湿布・・・ 余分 もってる? 」

「 ええ。  あ 使う? 」

「 ・・・ ウン ごめん・・・アタシ あの 左脚が さ・・ 」

「 使って!  みちよ グラン・フェッテ あるでしょう? 」

「 うん ・・・ でも フランソワーズだって 」

「 わたしは なんとかなるわ。 あそこ 見せ場じゃない? 

 ・・・ はい これ。 全部 使って 」

「 ・・・ ごめん  フラン ・・・ 」

「 いいの。 みちよの役にたてば ウチの父も喜ぶわ。 

 ねえ 湿布だけで大丈夫?  」

「 うん!  この湿布 本当に万能なの。 

 アタシさ これがあれば頑張れるんだ。 」

「 お〜し!  わたしも貼ってるから。  がんばろ! 」

「 うん♪  ありがとう〜〜〜 」

「 ♪ 」

フランソワーズは  Vサインで応えた。 

じゃあね ・・・と 手を振って そう〜〜っとみちよサンは

自室に戻っていった。

 

「 ・・・ 余分、もってきてよかったわあ〜〜

 博士 大感謝〜〜〜〜です〜〜〜 ♪

 さ わたしも 頑張っちゃう♪ 

 踊るだけでいい日 なんて最高じゃない? 」

 

   パ・・・。 繕った衣装を広げ点検する。

 

「 ・・・ よし。  さあ 踊りまくるもんね〜〜〜

 オクサン も お母さん も 今日までは一時休業デス♪ 」

 

    きゅ。 金髪を括ると彼女は本格的にストレッチを始めた。

 

脚を耳の横まで上げて。  ― うん 今日も脚は元気♪

この瞬間があるから わたし 奥さんでお母さんができるの!

 

( いらぬ注; 左脚云々〜  グラン・フェッテは右利きの人なら

 左脚を軸にして 回る )

 

 

 ― さて 移動公演 最終日。

 

「 みなさ〜〜ん  最後まで 気、抜かないで行きましょう〜〜

 あ 最終日ってね 怪我、多いから要注意! 」

ユミコ先生は 今朝も爽やかに元気いっぱい。

 

劇場のロビーに集合し そろそろ朝のクラスが始まるのだ。

ぼやぼやした雰囲気を纏って ダンサー達がごそごそ・・・

集まってきている。

 

「 ・・・ ユミコせんせ 元気ねえ 」

「 すげ〜よなあ 

若手は感心して眺めている。

「 ・・・ 大変だよね ・・・ ホント 」

「 ああ ・・・ もう怪我なんかできね〜よな〜〜 」

中堅は 気を引き締める。

あと一回。 その一回の舞台に全力投球なのだ。

 

  公演最終日。 

 

カンパニーのダンサー達は全員、むりやりでもテンションを上げる。

「  二ベルはいりま〜〜す!  お願いシマス! 」

ユミコ先生の掛け声が 楽屋中に 舞台袖に 響く。

 

     は〜〜い  お〜〜す  いきま〜〜す

 

幕が 開いた。 

 

  ― ダンサー達が光の中に踊りだす。

『 ジゼル 』 より 第二幕 ―

 

「 なんだ? フランソワーズってば ・・・ 」

「 うふふ いいじゃない たまには。」

「 しかし ウィリ達 が にこにこしてちゃマズいよ 」

「 わかんないって 表情なんて。 今回、 照明 暗すぎるからね 」

「 ・・・ そりゃそうだけど。 」

「 皆 頑張ったんだもの。 千秋楽は にっこにこ よ 」

「 まあなあ  今回 日程もキツかったし 」

「 彼女 初参加だからね〜〜   うん  よくやったわ 」

「 うん 確かに。 いい経験だったな 」

「 そうね  毎回だけどマダムの判断ってすごいわよねえ 」

「 ああ ・・・ もう俺 脱帽だよ 」

舞台袖では 総監督のユミコ先生と 舞台監督のタケシ先生が

ボソボソ語りあっていた。

 

   最終日 ―  全員が 全力で踊り抜く ・・・ !

 

 

 

 ― さて。 時間は少し逆戻りしまして 海辺の洋館では。

 

    トタトタトタ 〜〜〜〜〜  タタタタタ −−−−−

 

リビングは ちっこい足音で満ちている。

「 ん?  あ 〜〜  二人とも起きたのかい 

 

 

ほんの半時間ほど前 ―

 

ジョーが第二弾の 洗濯モノを洗濯機に放り込み戻ってきたのだが。

チビ達は 朝っぱらから水遊び?をして裏庭を駆けまわり

お腹いっぱい朝ご飯を食べたので ―  当然の結果 沈没していた。

 

「 ふふふ  他愛ないもんだなあ ・・・ 可愛い♪

 さ 今のうちに 洗濯モノ、乾す準備してこよう〜〜 っと 」

お父さんは 腕まくりして裏庭にむかったのだった。

裏庭には 大きな洗濯モノ干し場ありロープを張ったり

棹竹なんかも使って たくさんの洗いモノを乾す。

今日も晴天・・・ 満艦飾の洗濯モノはぱりぱりに仕上がるだろう。

 

 ― そして  戻って来れば・・・

 

「 ほうら 二人とも〜〜 部屋の中で走っちゃ ダメだよ 」

 

      きゃ〜〜〜〜〜 あはははは 〜〜

 

「 あ  おと〜〜さ〜〜ん 」 「 あは? おと〜さん だあ 」

 

       とん !   むぎゅう〜〜  

 

ちっこい身体がジョーの脚にしがみついてきた。

「 あはは〜 二人とも おっきしたね〜〜  

「 おと〜さん あそぼ  おにわであそぼ〜〜〜 」

「 おと〜さ〜〜ん  でんしゃ しよ?  けいきゅうのでんしゃだよ 」

「 おにわでかけっこがいい〜〜〜〜 」

「 でんしゃしよ?  おへやにね〜 せんろ、かくね 」

「 かけっこ〜〜〜 」

「 でんしゃ〜〜〜 」

これは二人ともかなりこだわっていて 譲る気配はない。

すばるも果敢に自己主張しているし  すぴかも情歩の気配はない。

 

      へえ ・・・?

      いつも結構仲良しのはずなんだけど・・・

 

      両者 がっぷり四つに組んで ってとこかあ

 

ジョーはしばらくチビ達のやりとりを傍観していたが

まったく別の提案をしてみた。

 

「 あ〜〜  そうだ 皆で はいきんぐ しよっか 」

 

「「 ・・・・ 」」

チビ達は 一瞬で固まった。

「 ん? どうかな〜〜 お庭でハイキング? 」

 

  つん。  すぴかが寄ってきてジョーのシャツを引っぱる。

 

「 おと〜さん ・・・ はいきぐん したい? 」

「 え あ うん、したい。   はいきんぐ  だよ 」

「 ・・・ なら ・・・ いいよ 」

 

  つんつん。  すばるも寄ってきた。

 

「 おと〜さん。 おにわ いきたい? 

「 ウン 二人とおにわでハイキングしたいなあ 

「 ・・・ なら  いいよ 」

 

 ぴと。 双子は申し合わせたみたいに ジョーの両脇にくっついた。

 

        お?  ふふふ〜〜

 

        なんだかんだ言っても 

        やっぱ一緒がいい んだな 〜〜〜

 

ジョーは 内心に〜〜〜んまり☆ 

 

「 そっか〜〜 それじゃ 決まり!  

 あ お父さんさ 急いでお弁当をつくるから 

 二人は 自分のりゅっく を持ってきてくれるかい 」

「「 うん  」」

チビ達は えらく真剣な顔で頷いた。

「 自分たちの部屋にあるよね? それを リビングまで持っておいで。

 あ 帽子ももってきて。 リュック と 帽子。 できるかな 」

できるっ!  すばる いこ 」

「 うん 」

むぎゅう。  すぴかは弟の手をにぎると 勇んで子供部屋に上がっていった。

 

「 ふふふ ・・・ 頼もしいなあ すぴか。 

 さ この間に お握りだ♪   コドモは梅や昆布は苦手だよね ・・・

 ツナマヨ と ノリの佃煮 と のりたま。 あ〜〜〜 あと 甘い系は・・・

 お。 鯛味噌 あるじゃん☆    これでいいか 

ジョーは冷蔵庫の中にアタマを突っ込み、大急ぎでメニュウを決めた。

「 よおし・・・と。  ご飯を大皿にあけて〜〜 」

 

   きゅ きゅ きゅ。     きゅ きゅ きゅ。

 

お父さんの大きな手から ちっこいお結びが ころん ころん ころん ・・・

魔法みたいに出てきて お皿に並ぶ。

「 ふっふっふ〜〜〜〜  なんか美味そう〜〜

 あ 大人用に梅干しと昆布も作っとこう っと 」

 

   おと〜さ〜〜ん     どこ〜〜〜〜?

 

リビングで すぴかの声がする。

「 お〜〜い こっちだよぉ〜〜  キッチンだ〜〜〜

 お父さん お弁当 作ってるよ 」

 

   おべんとう?    きゃほ〜〜〜〜〜〜〜

 

歓声と一緒に すぴかが駆けこんできた。

「 うわあ〜〜〜〜〜 おにぎりだあ〜〜〜〜 」

「 ・・・ これっくらいの♪  おにぎり だあ〜〜〜 」

「 おと〜さん これ おべんとう? 」

「 おべんと〜〜〜♪ 」

「 そうだよ〜  これをもって三人でハイキングだよ。

 え〜〜と これを包んで・・・ はい すぴか。

 こっちのは・・ ほいっと。 はい すばる。 」

「「 ・・・・ 」」

「 ほらほら お弁当だよ? リュックに入れて 」

「 ・・・うん 」

「 ん〜〜 」

「 入れたかい?  あ 水筒、水筒〜〜〜っと。

 麦茶、いれたからね  これも持って・・・ 帽子もな 」

さあ 行こうね〜〜 と ジョーはチビ達の先頭に立つ。

「 そ〜れでは いってきまあ〜〜す 」

「「 ・・・ イッテキマス 」」

な〜んか双子は 浮かない顔をしているが お父さんは

あまり気が付いていない様子・・・だった。

 

  タッタッ タッ   とたとたとた   ぱたんぱたんぱたん

 

昼近い庭は ・・・ やっぱりかなり暑かった。

 

      あちゃ ・・・ 

      こりゃちょっとマズいかなあ

 

      ま 帽子もかぶっているし

      いつも庭で遊んでるって言うから 大丈夫だろ

 

      弁当食べて すこし遊べば

      満足するよな チビ達〜〜 

 

「 さあ〜〜  楽しいハイキング〜〜〜 きもちいいね〜〜」

ジョーは か〜〜なり楽観的になっていた。

「 たのしいな〜〜  ね すぴか 」

「 ・・・・ 」

「 ハイキングだよ〜〜  ね すばる 

「 ・・・・ 」

「 さあ〜〜〜  皆でハイキング♪〜〜〜 

 お庭を周って〜〜 裏庭もまわって〜〜

 さあ お弁当は どこで食べよか? 」

「「 ・・・・ 」」

ジョー自身もリュックを背負って 左右にチビ達の手を引いている。

チビ達は 大人しく父親に手を引かれ歩いている ・・・ のだが。

「 ・・・・ 」

珍しく すぴかはむす・・・っと黙っている。

「 ・・・ はいんぐ  僕 いい 」

突然 すばるの足がとまり ずずず ・・っとオシリを落とした。

「 アタシも いい。  ・・・ あつい〜〜〜 」

「 ここで いい 僕。  あつい〜〜 」

「 あ 水筒のお水 飲んで〜〜 

「 ・・・  ん〜〜   おと〜さん ぬるい 」

「 こおり ・・・ はいってないよ? 

「 あ。 ごめ〜〜ん  お父さん、忘れちゃったよ・・・・

 今は これを飲んでくれるかな 」

慌てていたので 保冷剤も氷もすっかり忘れていたのだ。

 

      あ  ・・・ しまったぁ〜〜

      う〜〜〜 普段 やってないからなあ

 

      水ならオフィスで冷たい水 出るし・・・

      そうだよ 水筒の水は冷やしておかなくちゃ

 

      おい! ジョー、 お前〜〜  

      子育て、全然わかってないな!

 

ジョーは自身を殴りたい気分だ。 

「 う〜〜ん ・・・ それじゃ ここでお弁当にするか? 」

「「 うん!! 」」

「 え〜〜と・・・ 少しでも涼しいトコがいいか・・・

 おいで 二人とも。  ここは暑いからね 」

「「 ・・・・  」」

結局 テラスの屋根の下に戻って お弁当 を広げることになった。

 

「 おべんと おべんと うれしいな〜〜 ♪ 

 ほら すぴか。  すばる〜〜 開けられるかな〜〜 」

チビ達は ランチョン・マットに包まれた お弁当 を広げ ―

ちらっと中身を見ると さっそく口が尖がり始めた。

 

「 さんどいっち ないの? 」

「 ・・・ マーマレードさんど たべたい 」

「 みるく・てい ほしい  

「 むぎちゃ  ひえてないよ? 

 

むす・・・っとした表情で子供達の口からは 文句しか出てこない。

「 これが今日のお弁当だよ?

 さっき お父さんが作ってた お握りだよ 」

「 おにぎり・・・? 」

「 そうさ。 すぴかの好きなノリの佃煮 だよ 

 すばる? 齧ってごらん? 甘いよ 」

お父さんは一生懸命 進めるのだが 二人は浮かない顔だ。

すぴかは はじっこをちょい・・・・と齧った。

すばるは 指を突っ込んで鯛味噌を ちろりん、と舐めた。

二人ともあまり行儀がよくないのだが ジョーは横目でながめ

自分のお握りを せいぜい美味しそうに食べてみせる。

「 あ〜〜〜 美味しいなあ〜〜   お握り 最高だあ 

「 ・・・ おと〜さん それ なに? 

すぐにすぴかが 聞いてくる。

「 え  ああ 梅干しさ しょっぱいよ〜〜 

「 アタシ うめぼし すき!  ひとくち〜〜〜 」

「 ・・・ いいけど 食べられるかなあ 」

「 うん ひとくち〜〜 」

「 ・・ ほら 」

「 あ〜〜んぐ。  〜〜〜〜〜〜  おいし〜〜〜〜〜〜 !

 ねえ ねえ もうひとくち〜〜〜 」

「 僕ぅ ・・・ 」

「 すばる  アタシのこれ あげる〜〜  つなまよ だよ 」

「 あ 僕 まよね〜〜ず すき〜〜〜 」

「 ま、 いいや。 二人ともしっかり食べろよ 」

 

       まあ とにかく食べてくれれば・・・

       

       うん?  あれれ・・・

 

「 ・・・ おか〜さんのたまごさんど たべたい・・・ 」

「 まーまれーど さんど・・・ おか〜さんの  たべたい・・・ 」

 

おか〜さんのがいい!  おか〜さん おか〜さん おか〜さん〜〜

 

「 そうだよなあ〜〜   お父さんも お母さんのお弁当がいいなあ 」

チビ達が本格的に泣きだす前に ジョーは悲しい顔をしてみせた。

「 ・・・ おと〜さん も ? 」

「 おと〜さん  ・・・ ないちゃだめ 」

  

   ぴと。 ぴと。  大真面目な顔で父の両側にひっついてきた。

 

「 ・・・ お父さんも お母さんのサンドイッチ 食べたい ・・・ 」

「 おと〜さん!  おにぎり!  ほら おいし〜よ 」

「 これね あまいよ〜 おいしいよ おと〜さん  

「 そうかい ・・・? 」

「 ね ね  おと〜さん   いっしょにたべよ? 」

「 いっしょだと おいし〜よ 

「 そっか・・・ じゃ 三人でお握り 食べようか 」

「「 うん!! 」」

 

       やれやれ ・・・

       ・・・ なんか同情された のかな?

 

       まあ いっか・・・

       さあ 全部食べてくれよ〜〜

 

お庭でハイキング は 早々に挫折し。

なんとかお握りを食べると 三人は部屋の中に戻ってきた。

「 お父さん、後片付け してるからね ・・・

 リビングで遊んでおいで 」

「「  うん  」」

 

       ふう〜〜  なんとかなった・・・

       急いで片づけないとな〜〜

       晩ご飯 ― なんにするかなあ

 

        ―  あ。

 

       なんか一日中、飯のこと、考えてるよな??

 

        !!  そっか ・・・ そうなんだ

       そうだったんだ !

 

       ごめん ごめん〜〜〜 フラン〜〜〜

 

       チビ達のこと、全然知ってないよ ぼく。

       風呂もご飯も 遊びも なんも相手 できてないよ

 

       ・・・ フラン ・・・

 

       きみは一人で 奥さんやって お母さんやって

       ダンサーやってるのに!!

 

       ああ ぼくは ― なんもできてない〜〜〜

 

ジョーが自己嫌悪に浸りこんでいると ―

 

「 おと〜さん おつかい ゆくよ! 」

 

すぴかが キッチンに駆けこんできた。

しっかり帽子もかぶり お出かけする気分満載だ。

「 おつかい? ・・・ あ 買い物かい 」

「 ん。」

「 え〜と・・・ 今日は買い物は大丈夫だよ 」

「 いかないの? 」

「 僕〜〜〜 おつかい ゆくぅ〜〜 」

「 ね すばる! アタシとゆこ〜

 さ おと〜さん おつかい ですよ〜〜 」

「 え〜〜と ・・・ 」

「 お帽子 かぶってね。 お玄関でまってますよ 」

すぴかは 重々しく言うと 弟の手を引いてずんずん玄関に

行ってしまった。

「 あ 〜〜〜・・・  ま いっか。

 ふふふ・・・  フランの言い方、そっくりだ〜

 行きたいっていうんだから・・・  なにか葉物でも買ってくるか。

 あ 肉屋も覗こうかな 」

ジョーは ともかくエプロンを外し 財布と買い物用のリュックを

もちだした。

 

 

― 午後も すこうしお日様が傾き始めたころ

 

   えっほ えっほ・・・ よいしょ よいしょ ・・・

 

父子三人〜〜 ぱんぱんのリュックを背負って 坂道を上ってくる。

 

いつもお母さんが買うから と  じゃがいも と たまねぎ がいっぱい。

これはすぴかが選んだ。

( 両者ともちゃ〜〜んと ウチの野菜庫に詰まっている ! )

スイカも〜〜〜 ・・・・ すばるが でっかいスイカをご指名。

これは お父さんが背負って帰った・・・

 

「 ただいまあ〜〜〜 」

 

すぴかもすばるもご機嫌ちゃん ― でも ジョーはかなりへばっていた。

 

      晩御飯 どうしよう ・・・ 

      あ〜〜 もう面倒くさ〜〜〜 

   

      そうだ! 鉄板焼きだ !!

 

      あ。 肉 買ってない 

      あ。 炊飯器かけてない。

 

       うううう ・・・ 主夫失格だ・・・  

 

      あ こういう時は  ラーメン!!! 

 

だだだだ −−−− っとキッチンに駆けこみ、食糧庫をあけた。

「 え〜〜〜っと     ラーメン 〜〜〜  あった!!!

 ふっふっふ〜〜〜 冷やしラーメン だぞ〜  これがいい!  」

振り返って 冷蔵庫を確認すれば ―

「 あ ひき肉 はあるな〜〜 あと卵・・・

 野菜は モヤシ と レタスかあ   う〜〜〜ん・・・

 チビ達に ネギ山もり は無理だろうなあ   う〜〜ん 

試行錯誤の結果!

 

チビ達には 鳥ソボロ と スクランブル・エッグ。

これは 一つの鍋で連続して作れる。

モヤシとレタス千切ってさっとゆで 一緒にのせた。

あとは スープを溶かし麺つゆでうすめ  冷やしラーメン が

できあがった。

「 よおし〜〜 スープも冷やしたからな〜〜 」

ジョーは 我ながら会心のメニュウに に〜んまりした。

 

「 すぴか〜〜 すばる〜〜〜 ご飯ですよ〜〜〜 」

「「 はあい 」」

チビ達は リビングから駆けこんできた。

「 おと〜さん ごはん なあに? 」

「 なあに? 」

「 さあさ まずは席について   あ 手は洗ったね? 」

「「 うん!! 」」

「 で〜〜〜は   じゃ〜〜〜ん ♪ 」

 

    ことん   ことん。   山盛りのお皿が二つ。

 

「 ?? これ なに? 」

「 なに?? 」

「 まあ 食べてごらん? 」

 

   んぐんぐ   んぐ ・・・

 

「 〜〜〜〜 すき〜〜 (^^♪ 」

「 ずずずず 〜〜 おいし〜〜〜 

ジョーのお急ぎ・簡単メニュウは 二人にめちゃ受け。

「 そっか〜〜 よかったなあ 」

「 おと〜さんの すぱげってい すき〜〜 」

「 すぱげってい すき〜〜〜 」

「 あ・・・ これ ひやしラーメン なんだけどな〜 」

「 すぴかね〜〜 すばげってい だいすき♪

 おと〜さんのも だいすき〜〜〜 」

「 僕も 僕も〜〜〜  そぼろもあまくておいし〜〜 

「 あ そうかい ・・・ うん ・・・

 美味しく食べてくれるんなら  ―  なんでもいいか 」

「「 おいし〜〜〜〜〜〜 おと〜さん 」」

「 そっか  ウン  それで いいな。 うん 」

ジョーは とてもとてもとて〜〜も 満足だった。

 

 

 さて。  その夜のこと。

 

チビ達は 自分達のベッドの中でく〜く〜眠っている。

 

    rrrrrr ・・・・    電話が鳴った。

 

「 ?? 誰だあ   え フラン? 」

ジョーは 即行でスマホを手に取った ・・・ 

 

 ― そして 結果的に愛妻を泣かせた。

そして 電話を切ってから  ジョーは子供部屋で撃沈した・・・

すぴかとすばるの寝顔と眺めているうちに

コドモ用ベッドの間で 本当に撃沈してしまったのだった。

 

 

  翌日。  ぴっかぴかの日曜日。

 

「 ただいま〜〜〜〜 」

お母さんが 笑顔いっぱ〜〜いで 駅の改札口から出てきた。

 

「 「 おか〜〜さ〜〜〜ん  」 

 

すぴかもすばるも どう〜〜ん・・・と跳び付いた。

「 うふふふ〜〜〜 ただいまあ すぴか すばる〜〜

 二人とも イイコにしてたかな〜〜 」

 

駅の外、車に乗る前にチビ達はお母さんの手を引っ張った。

「 ? なあに 」

「 あのね あのね おか〜さん !

 アタシとすばる ね ず〜〜っとおと〜さんのとこにいてあげたの 」

「 うん!  おと〜さんがね さみしいよう〜 って

 泣かないように ・・・ ね すぴか 」

「 ね〜〜 すばる〜〜 」

「 それでね おと〜さん   いいこにしてたよ〜〜    ね すぴか 」

「 うん! おと〜さん なかなかったよ  ほめてあげてね  おか〜さん 」

チビ達は得意顔で お母さんに報告した。

 

        あ   は ・・・・

 

        そうなんだ???  それで・・・

 

ジョーは 思わず本気でずる・・・っとなりそうになった。

 

「 まあ そうなの。 お父さん イイコだったわねえ 」

「 え・・・ あは  まあ ね 」

「 じゃ ただいまのキス♪ 」

「 ! え こ こんなトコで  う・・・ 」

 

   えへ うふ ・・・ うふふ えへへ

 

チビ達は あつ〜〜〜いキスを交わすお父さん・お母さんを にこにこ・・・

眺めていた。

 

   

 

― さて その夜・・・

双子は くうくう〜〜〜 ベッドの中☆

 

ジョーはこの度の顛末を愛妻に告白した。

 

     ― なんにも知らないで ごめん。

     これから ぼくも子育て戦線に参加します!

 

     はい。 なんでもいいつけてください。

 

「 も〜〜〜 ジョーってば 最高〜〜〜♪ 」

がつん、と彼の愛妻が跳び付いてきた。

「 お〜〜っとぉ〜〜   あのぉ 当方、一応精密機器なんで・・・

 乱暴に扱わないでくれますか 奥さん? 」    

「 ふふふ 〜〜〜 あらぁ 結構アナログなんじゃありません? 」

「 またまた・・・ 最新型最強バージョン ですけど 」

「 ふふふ   知ってるんですけど〜お?   カチ って。

 手動でスイッチ on よねえ 」

「 あ  気にしてること、言ったなあ〜 」

むぎゅう〜〜  ジョーの大きな手が彼女を抱きしめる。

「 きゃ♪ 」

「 も〜〜 ぼくのヒミツを知ってるなあ〜〜 ♪ 」

「 うふふふ  003 に スイッチ・オン なんてありません?

 すべて 意志と直結なんですけど?  」

「 ・・・ くそぅ〜〜  あ スイッチ入ってしまったな〜〜

 ふっふっふ〜〜〜 」

「 あら(^^♪  わ・た・し も(^^♪ 

 あ あのね 明日・・・ 話たいことがあるの 」

「 あ〜〜 ぼくも。 明日 な。」

「 そうね  今晩は ― 二人っきりで 」

「 そ。 きみとぼくだけの 夜 さ♪ 」

 

 

 

子育て真っ最中のこの時期 ―  大きな戦闘行動がなかったのは

本当に奇跡に近い ・・・ と二人は思う。

 

 ― だけど。  もし BGがなにかちょっかいを仕掛けてきても

 

       他へどうぞ、お相手できません。

       当方  多忙につき  休業中

 

そんな メッセージを受け取るだけ だっただろう。

そうさ。 愛する家族と仲間達との時間が一番大切。

その他は 現在お相手しかねます  

 

         ―  多忙につき。

 

悪の組織 も 陰謀論者 も。 世界征服めざす独裁者も。

み〜〜んな 子育てすればいいよね。

 

 だって。 子育て中は闘いなんかできません ― 多忙につき。

 

Last updated : 08.09.2022.          back     /    index

 

************    ひと言   **********

皆が 家族に多忙なら  世界は平和です ♪♪